普段から便秘でお困りの方は多いと思います。厚生労働省の平成25年国民生活基礎調査によると便秘の訴えのある方は女性で4.9%、男性で2.6%と報告されています。
便秘症は50歳未満では女性に多いと言われていますが、60歳を超えると男性の数も増えてきます。
加齢による腸の蠕動運動の変化や、環境の変化(運動量の減少、併存疾患、処方薬、食事の変化)が便秘症を増やす要因となっていると言われています。
高齢化社会を迎えて便秘症の患者さんは男女ともに増加してきており、10-15%の有病率といわれています。
便秘で悩む方が増える状況下において成人便秘症診療のための日本では初の『慢性便秘症診療ガイドライン2023』(日本消化管学会)が出されています。
この中で便秘は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」とされています。
便秘症状は、排便機会残便感や腹痛、腹部膨満感(お腹が張る感じ)、食欲不振などがあります。ただし、排便回数は人により異なりますので、3日に一回でも、不快でなければ便秘とはいいません。
慢性便秘症は、心血管疾患の発症・死亡リスクの上昇、パーキンソン病や腎疾患の発症リスクの上昇に関与するため、長期予後に影響を与える可能性がある。大腸癌の発生への関与は不明であるとされています。
日常生活での予防・治療法
生活習慣についてガイドライン中では朝食を摂取することが排便習慣の確立に重要とされています。
女性では昼食摂取が少ない人で便秘が多く、一口の咀嚼回数が30回以上の人に快便が多い。
男性では1日あたり1,500ml以上の水分を摂取する人に快便が多いと報告されています。
また、食物繊維は主に小麦より米や豆類(おからを含む)由来のものをが多く含まれる食事や、ヨーグルトなどの乳酸菌食品が有効であるとの報告もあります。キウイフルーツ、プルーン、サイリウム(オオバコ)も有効性が示されています。
運動習慣については、歩行による大腸内視鏡の前処置の有効性向上などから、運動が有効と考えられています。
また、1日15分、週5回の腹壁マッサージが有効とも報告されています。これらは特に副作用やコストもかからず勧められる治療法であると提案されています。
他にも排便姿勢は特に重要とされています。新聞や雑誌を読むときの様な直立姿勢は排便には不適切であり、前傾姿勢が適した姿勢と言われています。最近はあまり見かけませんが和式トイレは排便には非常に理想的な姿勢とされており、洋式トイレに足置き台を設置して前傾姿勢をとるのも良いと言われています。
内服治療
便秘治療薬の代表的なものとして便中の水分量を増加させ、便を柔らかくして大腸通過時間を短くし排便を容易にすることを目的とした「浸透圧性下剤」と大腸を刺激し腸管の蠕動運動を引き起こし、排便を促進させることを目的とした「大腸刺激性下剤」があります。
その他には漢方薬や消化管機能改善薬、整腸剤、上皮機能変容薬などを用いることもあります。
薬物治療の基本は便形状の正常化のために、長くのんでも比較的安全な浸透圧下剤等を毎日内服して、必要に応じて大腸刺激性下剤を頓服で使用していくこと望ましいと考えています。
マグネシウムを含む下剤は比較的安全とされていますが、高齢者や腎臓の機能が悪い方などでは高マグネシウム血症といって体の中の電解質のバランスが崩れることがあるので、定期的に血液検査で測定することがすすめられています。
大腸刺激性下剤は長期連用により耐性が出現し、難治性になることがあり頓用または短期間の投与がすすめられています。
大腸癌など重大な病気を考慮するべき便秘症状
警告症状として、排便習慣の急激な変化、予期せぬ体重減少(6ヶ月以内に3㎏以上)、血便、腹部腫瘤、腹部波動、発熱、関節痛が、危険因子として、50歳以上での発症、大腸疾患の既往歴、大腸疾患の家族歴があげられており、この場合には大腸内視鏡検査(カメラ)などを施行して腫瘍等がないか調べるべきとされています。